「知多」は、サントリーのグループ会社・サングレインが稼動している知多蒸溜所で造られたグレーンウイスキーです。グレーン原酒はクセがなく、優しい味なので、モルト原酒の個性を引き立て、さらに滑らかな口当たりを生み出してくれる立役者のような役割を持っています。和食の出汁のような役割と言えるでしょう。
もともと知多蒸溜所の原酒は、モルトウイスキーとヴァッティング(ブレンド)する角瓶や響などのブレンデッドウイスキー用に造られてきました。グレーンウイスキーの主原料はとうもろこし、小麦、ライ麦などで、これらの穀物を糖化させるために少量の大麦麦芽を加えます。そして、原料を発酵させたもろみを連続式蒸留器で蒸留し、樽で熟成させます。この連続式蒸留器は、3種類のグレーン原酒が造り出せることができるもので、世界で見てもこの蒸溜所にしかないのだそうです。
3種類とはヘビー原酒、ミディアム原酒、クリーン原酒で、ヘビー原酒はアルコール臭が強くて刺激的な味ですが、水割りにすると穀物由来の香ばしさと穏やかな甘さがあります。また、クリーン原酒は甘味が強く後味がバニラ風味、水割りにするとキレのある味わいになります。近年のハイボールブームを受け、軽い口当たりのウイスキーが好まれる傾向にあるという背景から、サントリーでは食事と一緒に楽しめるウイスキーとして軽やかな味わいのグレーンウイスキーを売り出したのです。
しかし、「知多」は軽やかといっても一言で表せないような複雑さを兼ね備えていて、飲み干した後にまた飲みたくなる味が特徴といえるでしょう。これは約10種類のグレーン原酒をヴァッティングし、さらに多種類の樽で熟成させているためです。樽の材木にはサントリーの定番樽であるホワイトオークの他に、濃密で複雑な味わいを醸し出すスパニッシュオーク樽が使われています。それからワインが入っていたワイン樽も使用されており、これによって熟成するとイチゴのような甘い香りと滑らかな口当たりを持った原酒が出来上がります。ちなみに、この樽の一部はシングルモルトウイスキー「山崎」などと共通して使われているそうです。
また、原酒の熟成期間は5年から15年と幅があります。これもまた、味の幅を広げている理由の1つかもしれません。
知多蒸溜所は愛知県知多半島の工業地帯に建っています。設立は1972年、白州蒸溜所設立より1年早い年です。白州蒸溜所でも少量のグレーンウイスキーを製造していますが、知多蒸留所では100%グレーンウイスキーを製造しています。
グレーンウイスキーはクセがなく、風味が優しすぎるという面があるため、サイレント・スピリッツという別名があります。初めてグレーンウイスキーを製造したのは、1824年にスコットランド・ローランド地方に設立されたキャメロン・ブリッジ蒸溜所でした。
また、連続式蒸留器は1826年にスコットランド人のロバート・スタイン氏が発明したものです。ウイスキーの蒸留器には連続式蒸留器と単式蒸留器があり、単式では蒸留が終わるたびにもろみを投入しなければいけませんが、連続式では蒸留の終わりを待つ必要がなく、続けてもろみを投入できます。そのため、一度の蒸留で大量のウイスキーを蒸留することが可能になりました。さらに、大麦よりも安価な穀物を原料に変えて造られたのがグレーンウイスキーです。
本場スコットランドでは1850年代までは種類が違うウイスキーを混ぜてはいけないという法律があったのですが、改定されたことでモルトウイスキーとグレーンウイスキーをヴァッティングしたブレンデッドウイスキーが生まれました。個性が強く大衆受けするものではなかったモルトウイスキーにグレーンウイスキーが加わることによって、味が磨かれ飲みやすいウイスキーに生まれ変わったのです。そうすることでウイスキーの評価が上がり、スコットランド生まれの銘酒として世界中に広まっていきました。
日本では1929年にサントリーが発売した「サントリー」(別名・白札)が初めてのブレンデットウイスキーでした。「サントリー」は高い評価は受けませんでしたが、その8年後に発売した角瓶は、今もなおたくさんの人に愛されるロングセラー商品となっています。
製造については、知多蒸溜所で行うのは蒸留までで、熟成は白州蒸溜所に移して行うそうです。それも、知多蒸溜所の夏は暑く、工業地帯で空気が良いとはいえないので、熟成に不向きであることが理由かもしれません。森の蒸溜所という別名を持つ白州で美味しい空気を吸って熟成されています。
サントリーには優れたヴァッティング技術を持ったブレンダーがたくさんいます。その代表的な1人が、2014年に名誉チーフブレンダーに就任した輿水精一氏です。
輿水氏はウイスキー専門誌が認定する“Hall of Fame”という賞を、日本人で初めて受賞しています。この賞は長年ウイスキー業界において際立った貢献を見せた個人に贈られる栄誉あるものです。また、他のブレンダーたちはウイスキーの味を管理しています。
ブレンダーの仕事は、数え切れないほどある樽で眠る原酒の個性やピークを管理し、ヴァッティングすることです。それはウイスキーの味わいを設計することであると言えます。
またヴァッティングによって新しい製品を造るだけではなく、既存ウイスキーの品質を維持したり、改良したりすることもあります。先代が造り上げた既存ウイスキーの品質を維持するには、大変な労力を費やします。それは、既存のウイスキーに使われたのと同じ原酒の在庫があるわけではありませんし、あったとしても熟成が進んで味が変わっているためです。味が一定になるように常にブレンダー全員で味の確認を取り、品質を維持しているそうです。加えて、今後どのような原酒が必要になるかという将来設計も行い、貯蔵管理に務めています。現在、チーフブレンダーを務めているのが福輿伸二氏で、知多をヴァッティングしたブレンダーです。
また、ラベルの筆文字は書道家の荻野丹雪氏が手がけたもので、1989年から販売されている響と同じです。ラベルの原紙は古くから受け継がれてきた和紙を用い、濃藍色を重ねて線を出したキャップシールは知多半島に吹く軽やかな風を表現したそうです。
知多はどんな料理にも合いますが、福輿氏は和食に合わせて飲むことをおすすめしています。おすすめの飲み方はハイボールで、1:3が黄金比率だそうです。ハイボールの作り方は、大きめの氷をグラスにぎっしり入れたらウイスキーを注ぎます。ここで素早くマドラーでかき混ぜウイスキーを冷やすといいでしょう。
また、このときに氷が減ったら足します。次に冷たいソーダを注ぎますが、氷と氷の間に向けてゆっくり注ぐと炭酸が抜けません。そして最後に1回だけ混ぜましょう。
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