2013年に発売した竹鶴 ピュアモルト シェリーウッドフィニッシュは、2,900本限定で造られた年数表示をしないノンエイジのウイスキーです。
生花店にいるようなフレッシュな香りで口当たりは滑らか、最後にシェリーが香るまろやかな味わいになっています。熟成させたのは鏡板を新しいオーク材に換えたリメイド樽で、ヴァッティングした後にさらにシェリー樽で追加熟成を行っています。
このためにスペインのヘレス地方まで足を運び、ペドロ・ヒメネス種のシェリー樽を選んできました。ヘレス地方はシェリー酒の発祥の地で、紀元前からワイン造りが行われていたほど良いブドウが育つ土地です。シェリー酒はフィノ系、オロロソ系、スイート系、ブレンデッド系と4種類に分けられます。
この中のオロロソ系は芳醇な香りと重厚で複雑な味を持ち、特に辛口のドライ・オロロソの熟成に使われていた樽がウイスキーに再利用されるのが一般的です。ドライ・オロロソ熟成の後の樽はウイスキーにとって邪魔になる余分なタンニンや新材臭が抜けている上に、染み込んだシェリー酒がウイスキーに程良い香り付けをしてくれます。
ウイスキーの味を作るのは樽に使用される木材の香りといっても過言ではありません。新樽の場合、木の香りが強いためウイスキーにも強く香りが移り、色も濃くなります。そして、ウイスキーを入れる回数が増えるにつれて、これらの影響は弱まっていきます。
アメリカのバーボンやテネシーウイスキーは2年以上新樽で熟成させなければいけない決まりがありますが、それ以外の国では新樽と古樽を組み合わせてさまざまな味を造りだしています。近年ではさらに竹鶴 ピュアモルト シェリーウッドフィニッシュのように樽熟成後に異なる樽に入れ替えて風味を加える、ウッドフィニッシュという手法が増えています。また、熟成後の2種類のウイスキーをさらにヴァッティングして再度樽熟成させるマリッジという手法も生み出されていて、それぞれの蒸留所から次々と個性的なウイスキーが生まれているのです。
ウイスキーを樽に入れるようになったのは、昔本場スコットランドで高額な酒税をごまかすために密造し、シェリー酒の空樽に入れて隠したところ香り高く、美味しいウイスキーになっていたというのが始まりとされています。
お酒を熟成させるのに最適とされているのがオーク材で、日本では楢や樫に当たります。オーク樽で熟成させたお酒は淡い黄金色になり、ナッツやバニラのような香りが付くのが特徴です。オーク材が採れるのは主にヨーロッパと北アメリカで、産地によってもお酒の味は変化します。
また、バーボン樽やシェリー樽、ボルドーワイン樽に入れて他のお酒の要素を加えることも一般的です。ニッカウヰスキーは自社で製樽部門を構えていて、北海道、仙台、栃木にそれぞれ作業場があります。余市蒸留所を立ち上げた当初、竹鶴政孝氏は横浜のビール工場で樽職人として働いていた小松崎与四郎氏に来てもらいました。ウイスキーはもちろん、樽の製造も一から始めたということになります。
初めはスコットランド製の樽を分解して調べましたが、ビール樽作り名人にとってはウイスキー樽作りも同じことで、難しいことではありませんでした。そして、ニッカウヰスキーの樽製法が確立され、長谷川清道氏と佐々木亮一氏に技術が継承されました。
その後、余市製樽部門に長谷川氏、仙台製樽部門に佐々木氏に分かれて、さらに弟子に技術を伝えてきたのです。長谷川氏は入社2年目の頃政孝氏から「僕はいいウイスキーを造るから、君たちは良い樽を作ってくれ」と声をかけられたといいます。長谷川氏は感激し、意欲が湧いて一層樽作りに力が入ったそうです。
生き物である木を相手にした樽作りはマニュアルがなく、師匠のやり方を見ながら習うしかありません。そして、樽の最終仕上げのチャーリング(内面を焦がす工程)はブレンダーの指示を仰いで慎重に焼き加減を調整することもあります。できあがった樽が良い樽なのかはすぐには分かりません。5年から20年経った後の黄金色、琥珀色に育ったウイスキーを見て初めて自分の仕事に喜びとやりがいを感じるそうです。
気軽に楽しめて本当に美味しいピュアモルトを提供したいという思いで造られました。原酒は宮城峡蒸留所産と余市蒸留所産のシェリー樽モルトをヴァッティングしています。
低価格で、商品ではなく竹鶴政孝氏の歴史を前面に出した営業作戦も話題となり、功を奏しました。このウイスキーをリニューアルして造られたのがノンエイジの竹鶴ピュアモルトです。ノンエイジにすることで使える原酒の幅が広がりました。しかし、若い原酒が入ると、元来の竹鶴が持っていた深みやコクが損なわれる恐れがあります。
そのために、ベースの原酒とキーになる原酒の役割を明確にして、比率を微調整することで調和を取ったとブレンダーは語っています。先にあるブランドをリニューアルすることや継続していくことは、たいへんな労力が必要なのです。竹鶴ブランドが持つ味わい深さと飲みやすさを追及し、リメイド樽も使用しました。
リメイド樽とは樽の鏡板を新しいオーク材に交換したもので、古樽が原酒に与えてくれる味わい深さと新樽が与えてくれるウッディな香りを同時に添えることができます。政孝氏の名前を冠した竹鶴ですが、竹鶴という珍しい苗字の由来は家裏の竹林に鶴が来て巣を作ったからだといわれています。
酒造業を営む竹鶴家の分家に産まれた政孝氏は、大人になっても子どもの頃の生傷が残っていると自分で語っていたほどの暴れん坊だったそうです。そんな政孝氏は、8歳のときに階段から転げ落ちて鼻に大怪我を負いました。
なぜかその後、鼻の利きがよくなり、人一倍酒の香りを嗅ぎ分けられるようになったという不思議な話があります。本家では現在も竹鶴酒造という名で営んでいて、竹鶴という日本酒がメインです。ウイスキーを竹鶴の名で販売しようとしたときに、名前を使って良いかどうかを竹鶴酒造に確認の電話を入れたところ、快諾してくれたといいます。竹鶴酒造の日本酒もまた政孝氏と同様に本物の酒にこだわり、まっとうな酒を作り続けています。酒に対する真摯な姿勢は竹鶴家の方が持って生まれたものなのかもしれません。
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