イチローズモルトは、株式会社ベンチャーウイスキー(代表・肥土伊知郎氏)が製造・販売を行っているウイスキーです。
従業員数が少ないマイクロ・ディスティラリー(小規模蒸溜所)ですが、個性豊かでまろやかな味やその品質の高さなどから、ヨーロッパや北米で人気を集めています。また、本数の少なさから、日本は勿論、海外にも収集家がいるほどです。
熟成蔵には、効率よく生産するために適しているとされるコンクリートの床や空調設備などは無く、自然換気と木材のレールで樽を保管するという昔ながらの造りが特徴です。
熟成に用いる樽は、シェリー酒やバーボンの空樽を利用するのが一般的ですが、ベンチャーウイスキーではそれ以外にも、日本古来からあるミズナラなどの木材で作られた樽を用い、ウイスキーに独特の薫りを持たせています。
また、熟成期間が長ければ長いほど、価値が出て値段の上がるウイスキーですが、その間にアルコールは自然と蒸発してしまうため、熟成に時間を掛ければ掛けるほど、生産量は落ちてしまいます。
そのため、生産量よりも熟成期間や味、薫りを重視して造られているイチローズモルトは、ワンシーズンに200~400本程度しか販売されず、予約を受け付けた時点で完売してしまうということもあります。
イチローズモルトの口に含んだときに鼻から抜けていく香りは、ミズナラなどが持つ木々の落ち着いた香りとウイスキーが持つどこか苦味を感じる香りが一瞬広がり、後は爽やかな風味が残るものとなっています。また味も、アルコールの強いクセを一瞬感じますが、後にまろやかさと独特の甘み、心地良い渋みが広がり、スッキリとした飲みごたえがあります。
マイルドながら、はっきりした旨味とさっぱりした香りはイチローズ・モルト全ての商品に共通した点と言えるかもしれません。
また、イチローズモルトは、「カードシリーズ」というトランプの絵柄を用いたウイスキーの他、今は無い羽生蒸溜所のシングルモルト原酒と秩父蒸溜所のモルト原酒をブレンドしたものなど、様々な種類のウイスキーが販売されており、そのボトル独自の香りと味を楽しむことができます。
イチローズモルトを生産・販売している株式会社ベンチャーウイスキーは、2004年9月に設立されました。代表者である肥土伊知郎氏の実家は、1625年から続く酒蔵でしたが、父の代で経営不振に陥り、当時あった羽生蒸溜所を売るだけでなく、会社自体が他企業に経営譲渡することになります。当時はウイスキーの消費量が落ち込んでおり、譲渡先の企業からの条件の1つに「現在熟成中のウイスキー樽(およそ400樽)を全て廃棄すること」というものが出されました。
そこで、肥土氏は原酒を自身で買い取り、ウイスキーを製造することを考えます。しかし、当時はそのための資格や資金がなかったため、親戚や福島県の酒蔵の協力を得て原酒を買い取り、貯蔵庫に原酒を保存することができたのです。
その後、肥土氏は株式会社ベンチャーウイスキーを設立し、営業のため日本中のバーなどを巡りながら、どのような商品が求められているのかを調査していきます。また、ウイスキーの本場、スコットランドにて視察を行い、ウイスキー製造の知識や技術を深め、蒸溜所建設の準備を進めていきました。
2005年には預けていた原酒を用い、「イチローズモルト」を商品化しました。中でも、イチローズモルトカードシリーズの1つである「キングオブダイヤモンズ」は、イギリスで発行されているウイスキー専門誌「ウイスキーマガジン」のジャパニーズモルト特集にて最高の「ゴールドアワード」に選ばれました。
さらに、世界最高のウイスキーを決めるWWA(ワールド・ウイスキー・アワード)では、2007年以降5年連続で「カテゴリー別日本一」と評価され、イチローズモルトというウイスキーと株式会社ベンチャーウイスキーの名は、世界中の愛好家たちに広く知られるようになりました。
初めて日本一を取った2007年11月には、株式会社ベンチャーウイスキーとして自前の蒸溜所「秩父蒸溜所」を新設しました。その際、一からの設立には億単位での資金が必要なため、土地を埼玉県からリースし、その他の建築費などは土肥氏の親戚とリース契約を結ぶことで初期投資を抑えることにも成功しました。
長い時間を掛けて熟成することで価値の上がるウイスキー。
熟成という工程の中、自然と蒸発することで中身が減ってしまいますが、そのことを「エンジェル・シェア(天使の分け前)」と呼びます。
生産量が減ってしまう現象はありますが、ベンチャーウイスキーではそれよりも熟成に重きを置くことで、高品質なウイスキーが生産されています。その希少性から全シリーズを集めたいという収集家もおり、どうしても見つからないシリーズを集めるため、スウェーデンから秩父の蒸溜所に直接来たという人もいたそうです。しかし、探している2本は、今は無い羽生蒸溜所のものだったため、秩父蒸溜所でも手に入れられず、偶然立ち寄った酒屋で1本だけ見つけることができ、残り1本も見つかったら連絡して欲しいと言い残して帰国した、というエピソードもあります。
それほどまでに人を惹きつけるイチローズモルト。それは、作り手であるベンチャーウイスキーのこだわりに理由があるのでしょう。
例えば、土地や施設をリース契約にしている秩父蒸溜所ですが、原材料を発酵させる発酵槽や樽に用いられているミズナラの木は、肥土氏自ら北海道に買い付けに行き、樽職人がパンチョン樽に加工しています。さらに、ウイスキーを蒸溜するポットスチル(蒸溜器)は、図面があれば樽のように日本のメーカーに依頼することで安く造ることができるのですが、わずかな形の違いでもウイスキーの味が大きく変わってしまうほどデリケートなため、本場のメーカーに作成を依頼しました。
原材料となるモルト(大麦麦芽)にもこだわっています。一般的に使用するモルトは、モルトスター(精麦業者)というモルト専門業者から入荷します。これは、分業体勢を取ることで、安定した品質の麦芽を安く蒸溜所が仕入れることができるためです。
しかし、ベンチャーウイスキーはそれをせず、フロアモルティングという蒸溜所が独自にモルトを調達する方法を取っています。この方法は、世界各国にある蒸溜所の中でも極めて例の少ないことであり、それだけこだわりを持ってイチローズモルトが造られていることの証でもあります。
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