白州蒸留所では、まず始めに時間をかけて麦汁を木桶で発酵させますが、このとき数百種類ある中から選んだディスティラーズ酵母とエール酵母が加えられます。伝統的な木桶を用いて通常よりも長めに発酵を行うのは、森の乳酸菌の働きを増長させるためです。
酵母のお陰でクリーミーかつフルーティーな味わいとなり、また木桶のお陰で深い味わいが足されています。発酵が済んだ麦汁はもろみとなり、ポットスチルという銅製の単式蒸留釜に入れられ、約1200℃の直火で焼かれます。白州蒸留所ではさまざまな形のポットスチルが使われていて、世界で見ても珍しい複合型蒸溜所となっています。これは軽い原酒から重い原酒まで、多種多様な味を造りだすためです。蒸留の後は熟成に入りますが、高地にある白州蒸留所は涼しく、あまり発酵が進みません。そこで通常よりも小さめの樽を使用し、発酵が進むように工夫しています。寝かせる樽の原料はバーレルやホッグスヘッド、パンチョン、シェリーバットなどさまざまです。
材木が違えば原酒の味が変わり、例え同じ材木でも内部の焼き加減や前に入っていた原酒が違えば、さらに原酒の味が変わります。また、白州の原酒には麦芽の乾燥時にピートを加えた燃料を使い、燻製香を持たせています。ピートとはミズゴケなどが堆積し炭化した植物のことで、天日干しして使います。白州NVで使ったライトリーピーテッド原酒はピートを軽く焚いたもので、白州で初の試みだそうです。ライトリーピーテッド原酒は爽やかな味わいで、ミントや柑橘系の香りが特徴です。
白州NVはノン・エイジといっても、熟成期間の短い原酒ばかりでは爽やかさを主張するだけのウイスキーになり、白州ブランドらしくないものになってしまいます。そこでブレンダーは豊かなテクスチャーを持った、18年以上熟成した原酒を加えました。これによって青々としたリンゴのような香りが煮リンゴのような甘さに変化し、深い味わいと滑らかな口当たりが加えられたウイスキーとなりました。
日本に初めて建設したウイスキー蒸留所は大阪府の山崎蒸留所で、1923年のことでした。それから50年後、山崎蒸留所とは異なるタイプの原酒を造りたいと建設されたのが、白州蒸留所です。どこまでも広がる森の中に広大な敷地を持っている白州蒸留所では、自然と共生しようと愛鳥保護活動や森林保護が行われています。
ジャパニーズシングルモルトウイスキーは「日本人の繊細な味覚に合うウイスキー造りを」という想いで、スコッチウイスキーを手本にして製造を始めました。しかし、土地が違えば水や気候などが異なるため、例え同じ製法で造ったとしても全く味の違うウイスキーになるでしょう。スコッチウイスキーは小雨が多く寒さが厳しいスコットランドで造られていますが、一部の地域ではピートを含む水が流れます。
この水は個性的なウイスキー造りに貴重なものとなるので、水の使用権を争った過去があるほどです。一方、白州蒸留所は山梨県の南アルプスといわれる山々に囲まれた高地に建っていて、「森の蒸留所」という別名があります。ここもまた山崎蒸留所に引けを取らない名水地で、雨水が甲斐駒ケ岳を下り尾白川や神宮川を流れ、白州に行き着きます。白州はそのままの意味で白い州、白い砂が集まった扇状の地のことです。ここの水はキレの良い軟水で、香り立ちの良いウイスキーができるといわれています。
ウイスキー白州の味を形作っているのがこの山深い環境で採れる清水といえるでしょう。そして、ウイスキーの味を最終的に決めるのは、ブレンダーの長年の経験と技です。ブレンダー達は毎日約2000樽からサンプリングを採りテイスティングしますが、その中で時折あっと驚くような味を持った、若き原酒に出会うことがあるといいます。それは10年に満たない酒齢にもかかわらず、もっと長く熟成させた原酒に負けない個性のある原酒です。かねがねブレンダーの間では、「若き原酒の個性と輝きを活かしたウイスキーを造りたい」という想いがありました。その想いを形にしたのが、この白州NVなのです。
白州蒸溜所が建てられた当初着任していた初代工場長・大西為雄氏は、「世界でも珍しい森の中にある工場でできる製品は、大自然の摂理と自然が持つ力をいただいて成長しています。
自然環境が良いことで製品もまた良くなるので、自然を大事にすることは重要です」といい、野鳥が棲息できる環境を整えていました。また、鳥井信治郎の信念を受け継いだ大西氏は、第2の蒸留所の建設地選びに大きく貢献した1人です。
ウイスキーを育ててくれる水を「マザーウォーター」とも呼んでいますが、大西氏は鳥井氏同様、良い水を求めて水質調査をしに日本各地を駆け回りました。貪欲なまでに険しい山奥へ乗り出していくその姿勢は、「水の狩人」と呼ばれるほどでした。
大西氏は白州の水を飲んだとき、その美味しさに驚いたそうです。さまざまな分析を行った白州の水は、ウイスキー造りに最適と太鼓判を押されました。ウイスキーの理想郷を発見することができて、飛び上がるほどの喜びを感じたと大西氏は語っています。また、ここは山奥なので、冬は雪が積もり貯蔵庫の中の温度は5度以下にも下がります。しかし、貯蔵庫の温度調節をすることはなく、気温が下がるにつれて穏やかに進む熟成を見守っているそうです。
長年年配男性が飲むお酒のイメージが強かったウイスキーが、ハイボールブームによって幅広い年代と性別の方に楽しまれるようになりました。さらにウイスキーを知って親しんでもらいたいと造られたのが、ノン・エイジ・ステートメント・エクスプレッションという種類の白州NVです。通常は原酒の最低熟成期間を記載しますが、これには年数を表示しません。これで若い原酒を含めた色々な年数の原酒を組み合わせることが可能になりました。
若い原酒を用いることで爽やかな味を出し、かつ価格を抑えられるという利点があります。若さが前面にくるウイスキーなので、長い期間熟成させたものが好きという方には好まれないかもしれません。しかし、ハイボールやカクテルなどでアレンジして楽しむのには最適という声が上がっています。これからは軽いお酒が好まれる時代ともいわれているので、白州NVは時代に沿ったウイスキーなのかもしれません。
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